悲しいニュース!須磨のランドマークでありヴォーリズの名作、旧室谷邸が解体
神戸市須磨は、「源氏物語」などにも描かれているように、平安の時代からの風光明媚な鄙として有名な景勝地。
その須磨に離宮道と呼ばれる地域があるのですが、その名前は、在原行平が須磨隠棲の際に名月を愛でたと言われる景勝の高台に、天皇家の離宮として大正時代に建てられ、大正天皇も静養のために過ごされた武庫離宮(戦災で焼失し、現在、その跡地が神戸市に下賜され須磨離宮公園となっています)が由来となりました。
そういった貴顕の別荘地という歴史を受け継ぎ、この周辺には大正期から戦前戦後にかけて、船成金などの関西の実業家などの豪壮な別荘が建ち並びました。
その離宮道も、豪邸がどんどん姿を消し、敷地が細分化されたり、マンションになったりしてきた訳ですが、そんな中でも名残をとどめていたのが、こちら旧室谷邸。関西を中心に日本各地に数え切れないほどの建築物を設計したヴォーリズの住宅建築の中でも、現存するものとしてはおそらく大丸ヴィラ(ヴォーリズを訪ねてサン)と並んで最大規模だった。住吉山手の小寺邸と並んで、わたしの好きな住宅建築。
しかし、 そんな旧室谷邸が、解体の危機、というか、もう風前の灯火だとのこと。
しかし、なんとかできないものなのか。
おれにも、何かできないものか。
歴史とは、今まさに築かれているものだ。
例えば、今、国宝とされている建築、例えば法隆寺や銀閣寺も、できた当初は最新の建築、つまり今の人たちから見た六本木ヒルズとか、ハービスとかと同じ感覚だった訳だ。
しかし、それが50年、100年経ち、受け継いできた人たちが、次の世代にちまで守ろう、あと50年守ろう、ということを積み重ねてきて、それが500年、1000年になり、今から振り返ると、かけがえのない文化遺産として、誰から見ても大切なものという評価を受けるに至ったのだ(もちろん、そこに仏教への信仰という、守ろうという意識付けを強化する要素もあっただろうが)。
だから、我々の世代も、せっかく戦前から残ってきた文化遺産を、ひとつでも多く、次の世代に伝えていく義務があるはずではないだろうか。
そうしなければ、次の重要文化財、国宝になりうる文化遺産が、今の価値観、特に私有財産の経済性という偏った価値観だけで、勝手に破壊されていってしまうのではないか。
「美しい国」とか言っているのであれば、「日本の歴史や伝統を大切にする」というのであれば、そういったアクションこそが大切なんじゃないか。
<本エントリーのTB先>
室谷邸の解体について、エントリーをされている方々へTBを。
- ひろの東本西走さん
- のりみ通信さん
- 近代建築図鑑さん
- 京都ひとり歩き -yume_cafe-さん
- 神戸阪神地域芸術文化情報さん
- 追加>こんにちわ!エスプリな毎日です。サン
- 追加>気侭に写真で綴るサン
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コメント
トラックバックありがとうございました。
解体してしまえば、形がなくなります。 この先、ずっと見ることができなくなります。
なんとか残せないものか。。 そんな風に思います。
投稿: yume | 2007/01/21 21:56
日々変わっていく景色をネットで見るのが寂しいものです。あんなに立派な歴史的な建物が、こんなに簡単に消えるというのは納得がいきません。日本の文化度を疑ってしまいます。
投稿: gipsymania | 2007/01/21 22:27
トラバありがとうございました。
以前はこんなに木々がおおい茂っていたのですね。
駆けつけたのが20日だったもので、私が行ったときは庭木がかなり無くなっていました。
でも、ひと目見れてよかったです。
なんとか一部でも移築保存してほしいものですね。
投稿: のりみ | 2007/01/22 17:29
TBありがとうございました。
かつてはこんなに豊かな緑に囲まれていたのですね。
これこそ本来の住宅の姿と思いました。
のりみさんと同じく、業者の方には移築のための保存をきっちりと
やってもらいたいと切に願います。
どうも解体工事も性急で心配なのですが・・・。
投稿: ひろ009 | 2007/01/22 22:02
yumeさん、コメントありがとうございます。
>解体してしまえば、形がなくなります。
>この先、ずっと見ることができなくなります。
>なんとか残せないものか。。 そんな風に思います。
壊してしまうのは、本当に簡単。
過去の文化財が残っているのは、多くの人々の守ろう、維持しようという意思、思いの積み重ねな訳で、
なんで今の人間には、そういった意思がもてないのか、悲しいです。
gipsymaniaさんも、コメントありがとうございました。
>あんなに立派な歴史的な建物が、こんなに簡単に消えるというのは納得がいきません。
>日本の文化度を疑ってしまいます。
本当にそうなんですよね。
「美しい日本」とか言う保守なんだったら、こういった風景や文化財を守ってこそなのに…と思ってしまいます。
投稿: 六甲びと | 2007/01/23 00:12
のりみサン、コメントありがとうございました。
>以前はこんなに木々がおおい茂っていたのですね。
ひろ009さんも、コメントありがとうございます。
>かつてはこんなに豊かな緑に囲まれていたのですね。
>これこそ本来の住宅の姿と思いました。
その通りです。
周囲の道路の拡張整備によって、敷地はだいぶ削られたのですが、それでもこんなに木々に囲まれたたたずまいだったのです。
少なくとも、きちんとした調査を事前にして、保存のための記録を残しておいてもらいたいもの。
せめて、母屋だけでも。
また、解体にあたっても、部材を残すためにも、丁寧にしてほしいものです。
往時の須磨のたたずまいの記憶をとどめるためにも、離宮公園の中にでも、移転したら良いのにと思います。
投稿: 六甲びと | 2007/01/23 00:31
ご存じかもしれませんが、神戸新聞記事(3月2日)に「昭和の名建築再生へ 昨年解体の「旧室谷邸」」とあります。
一見、朗報のように思えますが、果たしてそうでしょうか?
「MINUTES / 旧室谷邸の解体を考える」 をご覧ください。(神戸新聞へのリンクも張ってあります)
投稿: Minuteman | 2008/03/08 17:37
Minutemanさん、コメントありがとうございました。
お返事がめちゃくちゃ遅くなってしまい申し訳ありません。
「一見、朗報」ってどなたが仰っているのでしょう?
そんな前向きな評価が、なされているとは思わないのですが…
残念ながら、室谷邸については、解体されてしまった段階で、
正直、もうどうしようもないのだと思います。
部分保存というのは、事前にどの部分をどのように再利用するか
計画しておかなければ、不可能です。
残った部材をモニュメントとして設置する程度しかできないと
思います。
あの建築を、時代へ残すことのできない状況というのは、本当に
悲しい、情け無いものです。
だからと言って、私が個人として何ができる訳でもないのが悔しい
のですが。
投稿: 六甲びと | 2008/04/26 17:19