いよいよJ開幕!リズムとテンポ:サッカー選手は、ミュージカルやプログレ、上原ひろみ、Prefumeを聴くべし!(その2)
■テンポアップ至上主義は是か非か
さて、となると、相手を崩すためにはどうすれば良いのか。
つまり、音楽で言えば、聴衆が、プレーに乗り切れずに、うまく踊れないようにするには、どうすれば良いでしょうか。
すぐに考え付く方向性、そしてどうやら現在の日本サッカーが追い求めている方向性とは、相手がついてこれなくなるまで、破壊的なまでにテンポアップするというということのようです。
まぁ、今のテクノサウンド(BPM200なんて、ハードコアテクなんてのもあります)的な方向性でしょうか。
たしかに、正直、私みたいなおじさんには、今のクラブサウンドのようなBPM=テンポがひたすら速い楽曲は、リズムを取ろうにも、腰砕けになってしまい、ちゃんとリズムに乗って踊ることなんてできません。
同じように、サッカーで(ラグビーでも)、圧倒的にパススピードを上げ、ワンタッチという速い球離れのタイミングで、かつランニングスピードも全力疾走で動き回る、ボールを動かしまわるということを行えれば、たしかに、相手ディフェンダーもついてこれずに、後手後手にまわり、ボールの行き先について行けず、フリーランニングした選手を見張ることができず、守備網が崩れていくことになるでしょう。
しかし、問題は、サッカーという競技をプレーするに当たって、現実的に、どこまでテンポを上げることができるのかということです。
そして、そんな速いテンポで、正確なプレーができるかどうかということです。
音楽で言えば、テクノサウンドが、あそこまで破壊的にテンポ=BPMを上げることができるのは、リズムマシン、シンセサイザーというマシーンだからできるのであって、例えば、日本のドラマーの中でも手数王と言われ、菅沼幸三さんのような、どんなにすごいドラマーであっても、BPM200で、きちんとリズムキープして打ち続けろと言われれば、おそらく、さすがに無理だと思います。
同じように、サッカーでも、とにかく、何がなんでもテンポアップだと言われると、さすがに、アンリだろうが、ロナウジーニョだろうが、カカーだろうが、メッシだろうが、クリスチャーノ・ロナウドだろうが、ミスを多発するのではないでしょうか。
日本人選手なら、言うまでもありません。
だから、私は、単純にテンポアップするという方向性には、反対です。
■チェンジ・オブ・ペース -テンポを意識的に変えろ-
また、もうひとつ、リズムやテンポに関して、よく強調されるのは、チェンジ・オブ・ペース、いわゆる「緩急」や「タメ」です。
例えば、日本の最近のポップスなども、意外に複雑な楽曲構造していて、Aメロ・Bメロからサビに入ったとたん、突然、ベースとなるテンポが上がって盛り上げるというアレンジはよく聴かれます。
ある一定のテンポ、例えばBPM100~110くらいでプレイをしばらく続けて、聴衆にそのテンポに合わせたダンスをさせてから、一気に、BPM140~150くらいに上げると、聴衆もそのテンポに合わせきれず、ダンスのステップや腰が崩れてきたりします。
(今の若い世代なら、BPM150くらいなら、しばらくの間同じテンポだと結構しっかりとついてこれるにも関わらず)
同じように、基本的に、絶対的なスピードを追い求め難い(BPM200は目指せない)日本サッカーは、オフェンスとディフェンスとの間に、相対的なスピードの差を作り出す。
つまり、あえて、ゆっくりめな一定のテンポでプレーして、相手のディフェンダーをそのテンポに対応させて、目と体を慣れさせておいてから、一気にギアチェンジで急激にテンポアップするというプレーを徹底して追い求めるべきでしょう。
個のプレーで言えば、カカーのドリブルなどは、緩急の象徴として、理想形のひとつです。
また、ユニットでの一連のパス回しのプレーにおいても同じで、タテのくさびのパスを合図に、一気にテンポアップをすべき、ということは良く中継解説などでも耳にすることです。
こういったチェンジ・オブ・ペース、緩急を意識したプレーを、大久保や松井はもちろん、家長や金崎、香川に内田、森本や宇佐美、いやさらなる若手が、もっとできるようになれば、それは日本サッカーの可能性を広げることに繋がるでしょう。
ただ、日本でチェンジ・オブ・ペースと言う時、どうも、上記のような個人のドリブルや、一連のパス回しの中の二つのシチュエーションだけで考えがちなような気が、私はしています。
それ以上に大切なのは、試合全体でのチェンジ・オブ・ペース、テンポの変化ではないでしょうか。
■試合全体でのテンポのマネージメントを
私は、日本のサッカーの試合を見ていて、テンポの変化を、一連のプレーの中でだけはなく、試合全体でコントロールすることが必要だと、ずっと感じています。
(特に、ウチのチーム=ヴィッセル神戸が、それが下手だということもあるからかもしれません)
日本のサッカーでは、試合の頭から思いっきりアップテンポでプレーを始め、常にプレースピードを上げすぎた結果、なんかミスも多くなり、無駄なプレーも増え、試合の途中でガス欠してしまうってパターンが、よく見られます。
もちろん、最後までハイスピードなテンポで押し通し続けられるスタミナを身につけることを諦めてはいけないでしょう。
しかし、サッカー選手は、陸上長距離選手と違うのですから、スタミナを向上させるトレーニングのみに時間を費やす訳にはいきません。
やはり、個人のテクニックやスキルの向上、ユニットプレーやチームプレーの精度向上の練習の方が優先されますから、現実的には限界はあるわけです。
だからこそ、試合全体の中での緩急、いつ、どの程度テンポを高めるのか。
逆に言えば、そのために、言わば撒き餌として相手の目を慣れさせるためのベースとなるプレーのテンポを、どう紡ぎ上げていくのか。
例えば、ミュージカルの全体の楽曲構成なんかでも、基本となるテンポがありつつ、シーンに応じて、テンポのまったく違う曲をつなげていくことで、観客側は、感情の起伏をかき立てられるわけです。
また、プログレの組曲とよく言われるような長尺大作(例えば、EL&Pの『恐怖の頭脳改革』「悪の経典」や『タルカス』、YESの『危機』など)も、一曲の中でかなりテンポチェンジがあります。
ぜひぜひ、サッカー選手は、プログレとか、ミュージカルのサウンドトラックのような大作を聴いて、一曲=一試合全体でのテンポの上げ下げの感覚を、実感して欲しいものであります。
| 固定リンク
« いよいよJ開幕! リズムとテンポ:サッカー選手は、ミュージカルやプログレ、上原ひろみ、Prefumeを聴くべし!(その1) | トップページ | いよいよJ開幕! リズムとテンポ:サッカー選手は、ミュージカルやプログレ、上原ひろみ、Prefumeを聴くべし!(その3) »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント